わかばやし かよこ & 特選珈琲

珈琲と木版画、こだわりの職人同士の「正統派ストロングスタイル」対決!

八千代台駅から10分ほど歩くと、住宅街に現れる黒を基調にした渋い佇まいの「特選珈琲」。インテリアも珈琲のスタイル(※)も、そしてマスターの見た目も、ストイックな雰囲気です。北村さんは、海外放浪、珈琲文化との出会い、アドバンスドコーヒーマイスターへの道、自家焙煎とエスプレッソマシンの話など、温和で論理的な口調ながら、熱く深く語ってくれました。

一方のアート作家は、八千代市の登録アーチスト、木版画家として知られるわかばやしかよこさん。実はこちらも、アートについては負けないくらいの熱と技術へのこだわりをお持ちです。この、まさに「正統派ストロングスタイル」カップルは、今回の企画で何をしようとしているのでしょうか。

※特選珈琲は「シングルオリジン専門のロースターカフェ」

「シングルオリジン専門」つまり、数種類の豆をブレンドするのではなく、単一品種・単一農園のコーヒー豆を使用しています。味や香りの違いを楽しんだり、生産者がわかることで消費者が安心できます。さらに「ロースター=自家焙煎」、生の珈琲豆を仕入れて自分自身で焙煎した珈琲豆を販売したり、抽出したコーヒーを提供したりしているということ。つまり、コーヒー豆本来の個性豊かな香りとコクの可能性をとことん追求します!というスタイルです。

【長い海外放浪で出会ったカフェ文化。生まれた土地に戻り珈琲道を追求】

北村
特選珈琲は3年前に開店しました。それまでは海外に15年ほどいて、ブラジルでブラジリアン柔術を習ったりしていましたね。道場で知り合った日系人がコーヒー農園をやっていて、そこでコーヒーに出会いました。ヨーロッパにもアジアにも行きましたが、どこでも自分で淹れた美味しいコーヒーを飲みたいと思い、簡易なロースターでコーヒー豆を焙煎し始めました。ヨーロッパはカフェ文化が深く、ドリップでなくてエスプレッソが中心です。通常、コーヒーとして出てくるのはエスプレッソをお湯で割ったアメリカーノ。当時はドリップしか知らなかったので、なんでこんな凄い(美味しい)ものが出てくるのかと驚きました。

その後いろいろあって日本に帰って来て、自分一人でできることを何かやりたい、と考えたところで、自家焙煎珈琲屋を始めたんです。

えー、15世紀くらいからあるコーヒーの歴史ですが、2000年以降、コーヒーのシーンは大きく変わりました。現在、サードウェーブと呼ばれている流れですが…

ここから30分以上、ここ最近の世界のコーヒーシーンについて講義がありましたが…ここでは割愛。事務局が気になるブラジリアン柔術黒帯の話も…割愛。とても面白いので、興味のある方はお店で北村さんに聞いてくださいね。

僕の持つSCAJアドバンスドコーヒーマイスターの資格は全国で約300人(2018年現在)しか持っていません。コーヒー豆の生産からコーヒーの抽出液の提出までたくさんの工程、全部を網羅して知識を持ち、実技ができるというものです。さらに、カッピングとエスプレッソマシンの資格を取って、まずは標準的な技術を身につけ、この後はさらに深いところへ、自分なりのスタイルを作っていきたいという段階ですね。

わかばやし
…すごく深いですね。そこまでどっぷりハマったのはなぜなんですか?

北村
まあ、コーヒーが好きだということですね。もう一つは、僕の性格として完璧なものを提供したいんですよ。

珈琲道は茶道に似たものがあると思います。資格制度って作法なんですよね。理屈を覚えて、作法通りにその流派をきっちり覚えて、免許皆伝になろうと。いろいろあって会社を辞めて海外に出た時から、嫌いなことは一切やらない、人にもやらせないと決めていました。利益追求ではなく、珈琲道の追求をしようと思ったわけです。

−特選珈琲さんは北村さん一人で経営しています。ネットでコーヒー豆の販売もしていますが、営業時間などにも特徴がありますね。

朝はモーニングで7〜9時。午後は13〜18時の営業です。基本的に平日は働いている人は来られないですね。この地域はお年寄りが多く、特に平日はほとんど、いろいろなコミュニティの集まりの場として使っていただいてます。また、食べ物の持ち込みが自由です。ヨーロッパでも東南アジアでも店頭や屋台で買ったものを食べながらコーヒーを飲んでも文句を言われない店が多く、そういうところを目指したいと思いました。経営的に成り立たせるのは非常に難しいのですが。

−確かにこのこだわりをこの価格で!と思います。コーヒーだけではなく、モーニングも人気ですし、スイーツにもいろいろ工夫が。地域の方にも浸透して来ていますね。

開店して3年、地域のコミュニケーションは重要だなと思いました。地域で仲良く暮らしていくためのノウハウみたいなのもあって、こうした形態の中でうまく潤滑に回るようなサイクルができてくるといいと感じています。

単純に珈琲道を追求するのであれば、店舗はやめてオンラインの豆販売だけに特化してもいいんです。ただ、ここ八千代台で生まれて長く暮らしているので、戻ってきたからにはそれなりに地域コミュニティにも貢献していくようなスタイルを取りたい。それに、珈琲道を究めて「なんで八千代台で?」と言われるようなクオリティのものを提供するのも意味があるかなという気がしています。

わかばやしさんはいかがですか?僕が知りたいのはフィロソフィー(哲学)ですが、美術への興味はどの辺りから?

【変わることを恐れない。柔軟な姿勢で、和紙と木版へのこだわりを追求】

わかばやし
子供の頃、両親が油絵を描いていたり、親戚に版画家がいたり、茶道や華道も身近にあるという環境で育ちました。絵はもともと大好きで、中学の時から美大へ行こう!と。大学には油絵で入り人物を描きながら4年間、大学院では木版画を専攻、プラス1年間研究生として残りました。技法が好きで、黄金背景の卵テンペラにはまった時期もあります。たくさん試して寄り道してきています。細かい線をひたすら引いて形にしていくとか一つの色を作るにもひたすら薄く薄く何層にも重ねてとか、そういうものが性格に合っているかな(笑)。筆で絵も描いていますが、あまり表に出さないので木版画家として認知されていると思います。

学校を出て、絵では食べられないなと思っていたので、手芸関係企業の企画部門でアルバイトや専門学校のデッサン講師などをしてました。クリエイティブなことのできる会社に携わって面白いと思う一方、帰ったらひたすら木版画に没頭していました。

北村
木版画はどのようなものを作っているんですか?

わかばやし
始めてから20年くらい経ちます。長くコテコテの木版画をやっていたんですが最近は少し違います。

コテコテと言うのはいわゆる、イメージを作って版木を彫り、紙に多色摺りをし、複数性があって、というものですね。絵の具は油性でも水性でもアクリルでも顔料でも。摺り方も同じ版を使ってグラデーションをつけたり、作品によります。転写側の和紙を何にするかで効果も違ってくるのでいろいろ変えます。

−和紙へのこだわりなどあるのでしょうか?

わかばやし
和紙に関しても昔から大好きで。素材として、触れた感じや肌合いが好きなんです。うーん、どうしよう(笑)。摺りで一番ビビッときたのは岩野市兵衛さん(※)が漉いている市兵衛和紙。なんと言いますか、仕事が丁寧にされている和紙なんです。素材や漉く人によってまるで違いますね。技法も素材も幅広く好きすぎて収拾がつかないんですよ。

※越前和紙職人、人間国宝 九代目・岩野市兵衛氏

北村
作品を作る時の入り方として、テーマというのは決めるんですか?

わかばやし
数年前までのテーマは「心証」。日々思っていることや感じていることを丁寧に作り込んできました。若い頃から人間観察が好きだったんですね。日常のシーンやその時々で考えていたことを切り取って版にしたり、日記的なものに近いと思います。

ここ数年でテーマが変わってきました。転機としては、結婚と出産があったからだと思います。それまでの制作方法だと、イメージを版にして、試し摺りも何十回もして、完成までにかなり時間と労力をかけていました。私の性格上、絵を描く環境に人の気配があると作品の世界に入り込めないんです。そうしてしばらく木版画から距離ができ…最近になって、過去の作品を見返したりしているうちに、自分の好きをもう一回見直してみようと思いました。そこで今度は「リズム」というシリーズへ。

北村
意識の上で大きく違うところはなんですか?

わかばやし
今までの作品はデッサンを積み重ねた延長線上だと思うんですが、リズムはかなり偶然性、ある種コントロール外で生まれるものに近いです。各工程にじっくり向き合う、そういうのを取っ払って、時間をおかずにその時の自分が出る作品を、大好きな和紙で表現してみたい。時間をかけず、気持ちがいい瞬間が閉じ込められたらいいな、と考えています。閉じ込めるのもタイミングが肝心です。ドライヤー片手に、今止めたい、って時に止められるように試行錯誤しながら。このくらいの水分量で、このくらいの色をのせて、今だ!って。それが楽しくて作っています。

うまく実生活に合わせて変化させていった結果ですね。最近ようやくまとまってきました。変化を怖がっていてはダメだなって。自分も変われば周りも変わるんだな、それが年をとったということなのかもしれないですが。

北村さんも節目でガラッと変わってますよね。

北村
僕の方は周りも変わらないし自分も変わってないと思うんだけど…やることは変わったんです。でも本質的なものは変わらない。

わかばやし
そうそう本質はやはり変わらない、そこなんですよね。

【いろいろなメッセージを込めた「ハート」をテーマに】

−今回の企画でどんなことをやりたいですか?

北村
アートと喫茶店がコラボして、だけだとお客さんの参加意識が乏しい。お客さんも見るだけでなくて一緒に参加するという感じが欲しくて、このペアだけでも「とりあえずハートを」というサブタイトルをつけたいと考えています。

最近、1台目のクオリティに満足できなくて、本場イタリア製のエスプレッソマシンを買いました。これを研究して、今回の企画に合わせてカプチーノを出すようにしたいです。エスプレッソベースにスチームミルクを入れる、その時にラテアートの基本の「ハート」をスチームミルクで描きます。「とりあえずハートを」というのは、そういう出発点的な意味も込めています。店内の作品もハートで、メニューにも。お客さんが頼む時に「“とりあえずハートを”ください」となると完成形だなと。

−お二人のコラボのうまい形として、来た人が写真を撮りたくなるとか、それを目的に来てもらえるようなことがあるといいですね。「とりあえずハートを」セットとして、ハートのカプチーノと作品のコースターでセットにする、写真を撮って誰かにハートを贈る、なんて形も考えられますね。

もう一つ。イタリアンクラシックエスプレッソは5種類以上の豆が入るのがルールです。3種類まで決めているので、残り2種類にフェアトレードとオーガニックの豆を使おうと考えています。すると「ハート」は生産者へ向けての想い、という意味にもなります。オーガニックやフェアトレードのコーヒー豆を支持するという考え方は、まだ日本ではそこまでメジャーではないので、裏テーマとしてそういう理念を込めたいと思います。


−「特選珈琲」さんとハートのギャップが可愛らしくていいですよね。そして北村さんのその発想は職人というよりアーチストよりですね!

わかばやし
ハートモチーフの作品として、和紙を珈琲で染めてみたものを素材にするなど、試してみています。入り口のガラスにシールを貼るとか、木版を摺ったり色を染み込ませたりした長い和紙を天井から垂らすなど、この空間の印象を変えるような装飾もしてみたいです。


わかばやしさんからは単純に絵を掛けるだけではない、空間をダイナミックに使うアイデアがポンポン出てきました。二人並んで天井をふり仰ぐなど、お互いの独特な形のパズルが、パチンとはまった瞬間を見た気がしました。

【アートと喫茶店、出会いや発見が地域を盛り上げるきっかけになれば】

−ところでなぜこの企画に参加しようと思ったのでしょうか?

北村
一番初期の、こんなことやりたいよね、というだけで形が決まっていない段階から参加しています。去年から地域コミュニティとの関わりについてもやもや考えていましたが、日々の業務に追われていて、機会が作れないところにこの話をいただいて。ここにも折り紙のサークルさんの作品を飾るなどもしていますが、今回のような大きな仕組みの中でいろんな人を巻き込んで、というのはなかなかできないので、そこに期待しています。

わかばやし
八千代に住んで10年と少し、知り合いも増えましたが、来た頃よりお店がなくなったり、だんだんと寂しくなってきている気もします。もっと盛り上がるものがあってもいいなと。ここに参加することで、私も、地元が盛り上がるための貢献ができるかなと、そういう思いもあって参加しました。

北村
そうですね。八千代台自体が高齢化してきています。だけど人が集まってきて盛り上がっている姿を見せることで、元気づけることができるかもしれません。町会の中心も代替わりして30〜40代の人が中心になってきたり、再開発をどうするかなどの話もあります。これからの変化にも期待しています。

−いろいろやることを変えながらも、頑固に本質を変えずに来たお二人。この企画を通じてどんな変化を期待していますか?

北村
この地域をリノベートしていこうという人たちがいる、そういった人たちの中に入って、自分もその一端を担えたらいいですね。この企画をきっかけに何かが変わり、長く継続したら企画自体も変わっていくと思います。地域のリノベートに合わせていろいろなことができるようになっていくのも面白いんじゃないでしょうか。

わかばやし
私もこういう企画に参加することが自身の成長につながればと期待しています。そして八千代を盛り上げる一つの要因になれれば。さらに、お客さんもアートに関わり、新しいお店を発見する経験をしてもらいたい。新しい出会いが生まれるきっかけになるといいですね。

ーありがとうございました。どんな空間が生まれ、どんな体験ができるのか。この先もFacebook やホームページで追いかけていきますので、皆さんもご期待ください。

アーティスト情報

作家名:わかばやし かよこ

ウェブサイト:http://wakaco.net

日々の記憶と瞬間感じるリズム。そして、人々の「間」に存在する心証を、木版や大好きな和紙・墨を使って表現しています。

カフェ情報

店舗名:特選珈琲

ウェブサイト:

住所:八千代台東4-12-10

電話:

営業時間:営業時間 M7-9、AN13-18 不定休

シングルオリジン専門のロースターカフェ。 常時世界から選りすぐりの6-8種類のシングルオリジンコーヒーをハンドドリップでご提供してます。